クルド住民投票からキルクーク危機。緊張高まるイラク。"圧力"か"対話"か。
2017年 10月 14日
イラクのクルド自治区に来るようになったのは8年前。
バグダッドやファルージャで展開していたプロジェクトのミーティングや
IDP(国内避難民)の支援のために通ってきたのですが、
ここ最近のクルド情勢が私たちにも強く影響が出てきました。
クルド問題はとても長く、複雑なので、それについては私は専門家ではないので書けません。
今から書くことは、あくまでも現状の話です。
IS掃討作戦で空爆&地上戦が続き、新たな避難民が連日増えているイラクです。
そんな状況にありながら、もう一つの問題がいよいよ本格化しそうな気配です。
現在、長年の懸案事項だったいわゆる"キルクーク問題”で、
イラク政府とクルド自治政府の緊張が高まっています。
クルド自治政府は9/25にクルド独立を問う住民投票を実施しました。
報道によると、投票率は72%、独立支持は90%超とされています。"不正をした"という人に複数あって、驚きましたが...(-_-;)
住民投票には、イラク政府、隣国イラン、トルコは大反対。
アメリカをはじめとする国際社会(イスラエルは賛成)も反対していました。
これについては日本でも報道があったかと思います。
今回、独立の気運が再び高まったのには大きく2つのきっかけがあると思います。
一つは、クルドの軍事組織ペシュメルガが2014年からのIS掃討作戦で多数の戦死者を出してきたこと。
検問所付近には戦死したペシュメルガ兵士の遺影が掲げられ、
一時期はペシュメルガを讃える映像がカフェなどでもひっきりなしに流れていました。
”世界のために流した血は独立に値する”と力説する人たちがいました。
もともと、イラク国旗よりクルドの旗の方が圧倒的に多く掲げられていましたが、
その数はますます増えていき、ナショナリズムが強くなっていくのを感じていました。
もう一つのきっかけは、中央政府からの経済制裁です。
2014年、当時のマリキ政権は、
「クルド自治区が勝手に独自のパイプラインを使ってトルコと石油の輸出契約を結んだ」として、
クルドの予算をカットしました。
公務員給料は数ヶ月に一度しか支給されなくなり、
金額は大幅にカットされてしまいました。
これは市民の生活を直撃しました。
各地で給料を求めるデモも起き始めました。
クルド自治政府にバグダッドとの関係修復を迫る声もありましたが、
そのうちに、予てから領土をめぐって係争中だったキルクークにISが侵攻してきます。
それを機に、クルドのペシュメルガ各勢力(KDP、PUKそれぞれ)はキルクーク油田を守るため進軍。
※KDPはバルザニ議長、PUKは住民投票の数日後にドイツで亡くなった故タラバニ元イラク大統領が組織)
当初、クルド自治政府は、予算をカットされても自前でやっていけるとの自信を見せていましたが、
長引くIS掃討作戦、石油価格の下落で予想通りにはいかなくなります。
同時に、クルド自治区にはIS支配地域(主に中央政府管轄地域)から安全を求めてやってくる人が激増。
1年で200万人に届きそうな勢いでした。
公立病院はどこも地元の人を上回る避難民のけが人や病人で溢れかえりました。
医師や看護師も生活のためにプライベートの病院でアルバイトする時間を増やさねばならず、
公立病院は、診てもらえない患者、手術してもらえない患者が列をなしました。
医療支援で病院を回ると、医薬品のなさに私も言葉を失いました。
モスルからのけが人を多数受け入れてる公立病院に医薬品を支援しなければならない状態でした。
今年4月に形成外科ミッションを行った病院は、
麻酔薬もなければ、オペに必要な医療品、オペ前の検査薬などもこちらで購入しなければならず、
深刻さを実感することになりました。
生活困窮にあえぎながら、
ホストコミュニティとして難民やIDPを受け入れることは、
地元の人々にとって想像を絶する苦労を伴いました。
この中央政府からの経済制裁を「虐殺」と憤る人々もいます。
「モスルは解放後、給料が出てる。なのに、避難民を抱えたままの私たちには給料がほとんど出ない」
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多くの人が、長年の悲願である独立の夢にかけたかったのでしょう。
ただ、「独立支持」を投票した人たちの中に、
実は...と胸のうちを語り始める人たちがいました。
「独立には賛成、でも時期は今じゃない」
まず、独立するには国際社会の支持がいる。
経済的に自立できるのかどうか。
そして、クルド内部の問題(汚職や権力闘争など)を解決しなければ、
独立しても成功しない。
これが、彼らに共通の"密かな"本音でした。
しかし、それを公で発言することは「大変危険」なので、声をひそめてそう言うのでした。
はっきりと反対を表明するクルドの国会議員にも会いましたが、
彼もそれを口にすることは「大変リスキーだ」と言っていました。
住民投票の直前。
イラク政府はキルクークから45キロのハウィジャでIS掃討作戦のため地上軍を派兵しました。
クルドの人々は、一瞬ギョッとしていた感じはありました。
つまり、IS掃討と言いながら、銃口をこちらに向けるのではないかという懸念でした。
住民投票は予定通り実施され、開票結果は投票した人の90%以上が独立支持と出ました。
イラク政府はすぐさま、「憲法違反の住民投票を強行したこと」に対する制裁を科しました。
まずは、クルド自治区内の2つの空港の国際線飛行停止措置を発表。
実際に9月29日18時から現在まで、国際線は離発着全便キャンセルとなっています。
続いて、クルド系銀行の送金も一部制限。
次は携帯電話も止める、というような報道も...。
隣国のトルコとイランも陸路閉鎖すると言ってます(現在はまだ開いているようですが)。
トルコはさらに、石油のパイプラインも止めるぞと脅しています。
アルビル空港は、国際線禁止措置が予想以上に長引き、
空港そのものが持ち堪えられないかもしれないと言っています。
クルド自治区には外国人がとても多く、
企業だけでなくNGOなども(私も... )これらの措置には振り回されています。
振り回されながら、注意深く様子を見て、
緊急支援などを続けています。
10月5日、ハウィジャ奪還成功とイラクのアバディ首相が宣言しましたが、軍事作戦は続きます。
IS掃討作戦の「ファイナルステージ」がアンバール州西部の砂漠地帯で本格始動との報道が出ます。
すでに現地からは、
「連日、避難民がファルージャ近郊のキャンプに到着している。支援物資が追いついていない」
と連絡がありました。
ところが、ここに来て問題発生。
クルド側から、「キルクークでイラク軍がクルド側に攻撃した」との訴えが出たのです。
イラク側は、「いや、クルド側にIS戦闘員がいたからだ、クルドを攻撃する計画はない」
クルド側は、「いや、言い訳だ」
「新たな戦争起こすな、対話だ」と諌める言葉もあちこちから出ていますが、
イラク側は、キルクークを2014年以前のようにこちらに返せと言い、
クルド側は、キルクークを「ハート・オブ・クルディスタン」と呼び「死守」する構え。
両者キルクークに増派、睨み合いが続いているようです。
ニュースでは繰り返し、「イラクとクルド、キルクークで緊張高まる」と報じています。
イラク軍にはイランが絡んだシーア派民兵も含まれていますので、
今後は宗派的な対立も交えて緊張が高まっていくと思われます。
しかしね...
どんなに緊張高まっても、どんなにムカついても、
はるかに難しくても、妥協なんてできるか!と思っても、
何十年かかっても、対話でなんとかしてほしい。
新たな戦争で、また市民が犠牲になったりとか、
ダメです。ありえない。
と、これを書いている間に、アメリカがイランの核合意を認めないと演説し、
イランが反発しています...orz
by nao-takato
| 2017-10-14 06:03
| イラク全体





