スンニ派全滅の未来予想図

イラクに「混迷」「泥沼化」「内戦状態」などの言葉が冠するようになって数年。今はなんと表現したらいいだろう?

バグダッドはスンニ派に対する「浄化作戦」が行われていると言っていいと思う。バグダッドで学校に通える子どもたちは、小学生から大学生までほとんどシーア派であり、スンニ派の家族は外に出る事自体が無理なので、学校への送り迎えをすれば生きて帰ってこられない可能性の方が大きい。夫は殺されたか、家族の安全を考えて一人で外国か砂漠を彷徨う孤独な旅人となっている。特に30代の働き盛りの男たちは、かわいい盛りの子どもたちを想い、妻の安否を気遣って疲れ果てている。家族をイラクに残して1人で安全な外国にいるなんて、と思われるかもしれないが、この現実はイラクの外にいては想像しにくい。しかし、家族離散が今のイラク人スンニ派住民にとって苦渋の選択であり、最善の策なのである。

マレーシアに滞在中、イラク人たちの携帯電話にはさまざまな連絡が入ってきており、私の友人の従兄弟と義兄が次々に殺害されたという最悪の報せも飛び込んで来た。その数週間前には、その友人の実の父親がシーア派民兵に拉致された。友人は身代金を払って、父親をなんとか取り戻したが、父親は解放後に心臓発作で他界した。その数日後、別の従兄弟が米軍を標的にした爆弾の巻き添えになり、重傷を負った。壮絶な状況に置かれている友人はマレーシアにいるイラク人たちに、「絶対にバグダッドに戻ってくるな。どんなことをしても外国で生き延びろ」とメッセージを送ってきていた。

2005年5月のイラク移行政府発足以降、突然に闇の中で拉致され、拷問され、殺害されたスンニ派住民(※100%ではないが、大部分はスンニ派である)は、4万人あるいは10万人とも言われている。遺体安置所に運ばれる前に、家族が民兵にお金を支払って遺体を引き取るケースも非常に多く、これらは数字にカウントされることはまずない。

国連はイラク国内避難民の激増について懸念を示しており、緊急支援には6000万ドルが必要だとしている。

BBCニュース2007年1月9日

国連は今年末までにイラク国内避難民は270万人に達するだろうとも予測している。ヨルダンのイラク避難民が70万〜100万人、シリアには100万人以上、エジプトやレバノンにもそれぞれ2万〜8万。2004年〜2005年にかけては、北欧を中心に欧州各国、オーストラリアなども積極的にイラク人避難民を受け入れていたが、そのうちに門戸は閉ざされていった。そして、イラク周辺国のヨルダン、エジプト、レバノンもイラク人の入国を極端に制限するようになり、かなり寛容に受け入れてきたシリアでさえ、滞在期間などを制限するようになってきた。そして今、イラク人はまったく別世界とも言える高温多湿のイスラム国マレーシアにまで流れてきているのだ。

イラクの総人口が2500万人。その内スンニ派が3割ほど(750万人)と言われている。イラク国内避難民のほとんどはアンバール州、サラハディン州に集中しているスンニ派である。バグダッドのスンニ派住民は「より安全」を求めてアンバール州に避難してきている。アンバール州が安全なわけがない。相変わらず、米軍が民家を空爆して死傷者が多数出ており、緊急支援のリクエストが途絶えることはない。そんな危険な場所に「より安全」をどう求めるというのか?バグダッドのスンニ派住民は言う。

「ファルージャやラマディ周辺はバグダッドに比べればはるかに安全だ。なぜなら、敵が米軍だとはっきりしているからだ。しかし、バグダッドは家の中で息をひそめていても、夜中にシーア派民兵が、イラク警察が、イラク軍兵士が、ギャングが、男を連れ去り、拷問し殺害する。若い女はレイプされ殺害されているのだ」

先月からバグダッドで始まった米軍の掃討作戦。シーア派民兵は一斉になりを潜め、狩りの対象となっているのはスンニ派地区の「スンニ派武装勢力」。「自衛」のために自宅に持ち込んだ住民は銃を取り上げられ、その結果ますますスンニ派は水面下でうごめくシーア派民兵の餌食となっている。

2年前、イラク人シーア派の友人たちにスンニ派がシーア派民兵に拷問殺害されていることを説明した時、彼らは「あり得ない」「信じたくない」と言い張り、その可能性を強く否定してきた。しかし、ここ最近になって彼らは事実を知ってしまい、納得せざるを得なくなった。あるイラク人シーア派は私にこう言った。

「あの頃、私はあなたの言うことをまったく信じられませんでした。逆にシーア派民兵に自警団としての信頼を置いていたくらいです。しかし、今はあなたの言っていたことが理解できます。イラク人シーア派は2つに分裂してしまったと言えるでしょう。イラク人シーア派とイランに傾倒しイラク人を滅ぼそうとするシーア派と…」

私は決してスンニ派の肩を持っているのではない。シーア派の友人もたくさんいる。シーア派の友人もシーア派民兵から脅迫されている場合も少なくない。しかし、この2年ほどの間に見ているイラクはあまりにもスンニ派受難の構図だ。ニュースは今日も、「シーア派住民が標的にされたテロ」がメインになっている。公平に事実を求めるならば、メインニュースの陰に潜むこれらの事実を引っ張り上げなければならないだろう。
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by nao-takato | 2007-03-07 22:09 | イラク全体

リアルタイムでイラクの今をお知らせする為の公開日記


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